誰かのthe oneになりたい人生だった

 最近また婚活に精を出している。一年くらい頑張って一年くらい交際してダメになって一年くらい休んでまたがんばる、みたいなダメサイクルができてしまっている。

 昨日出会った男性は、柔らかな物腰に立派な職業、清潔な身なりのモラハラ野郎だった。「犬に腹を立てても仕方ないが、あの女は犬以下だ」と職場のパート女性を悪様に表現する彼は、それでも爽やかに微笑んでいた。婚活で知り合った女性がいかに失礼だったか、ドタキャン食らった時に自分がどう思ったかを初対面の私に対してチクチクと責め立てる顔もつるりとしていて、嬉しげですらあった。心底怖かった。

 なんでこんなクソみたいな男と食事してダメージ食らってまで婚活をしているかといえば、誰かのたった1人になってみたいからだ。私のピンチに駆けつけて、泣きながら戦ってくれる誰かに会いたいのだ。本当に戦わないでもいいし私もピンチに陥らないよう頑張るけど、「この人は私の尊厳が損なわれたら、死ぬ気で戦ってくれる」と信じられるたった1人に会いたいのだ。

 平庫ワカさんの「マイ・ブロークン・マリコ」を、そんな今日に読んだので、思わず泣いてしまった。

 主人公のシイノは、昼食中に見ていたニュースで、親友のマリコの自殺を知る。マリコが中学時代から実父からの壮絶な虐待にあっていたことを知っているシイノは、父親からマリコの遺骨を奪うべく包丁を持ってマリコの家に乗り込む。這々の体で遺骨を持ち出したシイノは、マリコがかつて一緒に行きたいと話していた海まで旅をすることにする。

 主人公のシイノは、度重なる虐待により精神的に不安定なマリコを理解できない。それでも、マリコのありのままを受け入れ、愛している。マリコの自殺の理由はシイノにも読者にも分からないが、シイノはその理由を探すことなく、ただただマリコが失われてしまった事実を悼む。シイノにとって、マリコは壊れた女だが、それでも「あたしには正直あんたしかいなかった」のだ。

 このシイノのマリコへの愛情が、泣けて泣けて仕方なかった。壊れたマリコは依存気質のメンヘラで、父親からおぞましい虐待を受けていても諾々と従い、大人になってから付き合う男はガラが悪くマリコを殴る。シイノが心配してフライパンを持って暴力彼氏を追い払っても、あっけらかんとして会いに行ってしまう上、「こんなに痛くても死なないんだもんなんだなァ」である。これではシイノも浮かばれない。それでも、「何度もめんどくせー女って思った」マリコの記憶が薄れて、ただ美しい面影になることを泣いて拒むシイノの姿は胸を打つ。シイノは、マリコが可哀想だから大事にしてるわけでも、いい子だから友達でいるわけでもない。ただ、マリコその人自体を愛している。愛しているから何もかも捨てて旅に出てくれる。シイノにとって、マリコは世界でたった1人の相手なのだ。それが性愛でなくても、恋愛でなくても。

 別に恋人でなくてもいい。男性でなくてもいいし、どんな関係性でもいい。ただ、私が尊厳を害われたまま死んだ時に、遺骨を盗み出してくれる誰かが欲しい。私を大切にして、愛してくれる誰かに会いたい。自分の人生のテーマは、もしかするとそこなのかもしれない、とベソを書きながら物語を読み終えて思った。